東京地方裁判所 昭和56年(ワ)3494号 判決 1982年1月28日
原告
阿部義栄
被告
山崎京子
主文
1 被告は、原告に対し、金一六四万五六九〇円及び内金一四九万五六九〇円に対する昭和五四年六月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを三分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金五三九万九九〇〇円及び内金四八九万九九〇〇円に対する昭和五四年六月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行の宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 事故の発生(以下、本件交通事故という。)
(一) 日時 昭和五四年六月一九日午後五時一五分ころ
(二) 場所 東京都板橋区二丁目六九番地先地下道路上
(三) 加害車 普通乗用自動車(品川五七な二八一九)
(四) 右運転者 被告
(五) 被害車 原動機付自転車(豊島区い八四五七)
(六) 右運転者 原告
(七) 態様 被害車は加害車に接触されて転倒した。
2 責任原因
被告は、前記日時場所で、加害車を運転して、志村方面から池袋方面に向け時速約四〇キロメートルにて走行中、同方向に時速約二〇キロメートルで道路左端を進行中の被害車を右後方から追い越すにあたり、原告の原付自転車の動静を注視し後方並びに側方間隔を保つて安全に追い越すべき注意義務があるのにもかかわらず、これを怠り、被害車の追い越しを完了したものと速断し、後方及び左側方の安全を確認することなしに、かつ方向指示器を点滅させることもなく、漫然と被害車の直前で急に左側に進路変更を行なつた過失があり、これにより後記権利の侵害をなし、後記損害を発生させたのであるから、不法行為責任を負うものである。
3 権利の侵害
(一) 原告は、本件交通事故により外傷性血気胸・肋骨多発骨折・頭部外傷・右鎖骨骨折等の傷害を受けた。
(二) 原告は、右傷害の治療のため、昭和五四年六月一九日、訴外橋本病院に入院し、翌日退院し、次いで都内豊島区東池袋三丁目所在の訴外池袋病院に同月二〇日から同年九月二〇日まで入院し(入院九三日)、同月二一日から昭和五五年一月二一日まで通院した(通院期間、一二三日、実通院日数は九二日)。
(三) 原告は、本件交通事故により、前記原動機付自転車を破損させられ、その所有権を侵害された。
4 損害
(一) 入院雑費 金五万五八〇〇円
原告は、一日六〇〇円の割合で九三日分の支払を余儀なくされた入院雑費は金五万五八〇〇円となる。
(二) 交通費 金一万八四〇〇円
片道一〇〇円の割合で往復九二日分、金一万八四〇〇円となる。
(三) 付添費等の諸経費 金四万三九〇〇円
(四) 文書料 金九五〇〇円
原告は、文書料として合計金九五〇〇円の支払を余儀なくされた。
(五) 休業損害 金五九万二五〇〇円
原告は、訴外株式会社平和アルミ製作所に勤務する者であるが、右入通院期間中休業を止むなくされ、昭和五四年六月二〇日から翌五五年一月二一日までの休業損害として金五九万二五〇〇円の得べかりし利益を喪失した。
(六) メガネ代 金七万四〇〇〇円
原告は着用していたメガネを全損させられ、右時価金七万四〇〇〇円相当の損害を被つた。
(七) ヘルメツト、着衣料 金二万〇八〇〇円
原告は、本件事故によりヘルメツト及び着衣を全損とされ、ヘルメツトの時価金四五〇〇円相当の、着衣の時価金一万六三〇〇円相当の各損害を被つた。
(八) 慰藉料 金四〇〇万円
原告は、本件交通事故により、従来通りの肉体労働を行なうことは不可能となり、作業内容の変更を余儀なくされ、その他諸般の事情による精神的苦痛は多大なものであり、その慰藉料としては金四〇〇万円を下廻らない。
(九) 原動機付自転車代 金八万五〇〇〇円
原告は、本件交通事故により、前記原動機付自転車を破損せられ、全損となつたので時価金八万五〇〇〇円相当の損害を被つた。
(一〇) 弁護士費用
原告は、被告が任意の弁済に応じないので、本件訴訟の追行を原告代理人に委任し、その報酬として金五〇万円の支払を約した。
5 結論
よつて、原告は、被告に対し、本件不法行為に基づく損害賠償金金五三九万九九〇〇円及び弁護士費用の損害金を除いた内金四八九万九九〇〇円に対する不法行為日である昭和五四年六月一九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因第1項の事実は認める。
2 同第2項の事実は否認。
3 同第3項(一)ないし(三)の各事実は認める。
4 (一) 同第4項(一)の事実は認める。
(二) 同項(二)ないし(三)の各事実は不知。
三 抗弁
1 過失相殺の抗弁
原告には、本件交通事故の発生につき、道路左端を進行すべきところ、不注意にも加害車側に突然やや右方に斜進した過失がある。
2 人的損害の填補
(一) 自賠費保険金 金一一九万八七八〇円
(二) 任意弁済金 金一三万七〇〇〇円
四 抗弁に対する認否
1 抗弁第1項の事実は争う。
2 同第2項(一)、(二)の各事実は認める。
第三証拠〔略〕
理由
一 請求原因第1項及び同第3項の各事実は当事者間に争いがない。
二 次に、被告の過失及び原告の過失相殺事由につき検討を加える。
いずれも成立に争いのない甲第一号証の一ないし六及び一一、一二、原告本人尋問の結果(但し、後記採用しない部分を除く。)及び被告本人尋問の結果を総合すれば、以下の事実を認めることができる。
1 被告は、前記認定の日時場所で加害車を運転して、志村方面から池袋方面に向け時速約四〇キロメートルで進行中、同方向に時速約二〇キロメートルで道路左端寄りを進行中の被害車(原動機付自転車)を前方に発見し、これを追い越そうとして右にハンドルを切つて区分線(進路変更禁止線)をまたぐ形で進行し、同車との後方及び左側方の間隔、その動静を確認することなしに追い越し終えたと考えてやや左に転把した後、再び直進したとき、後方にガチヤンという音を聞き、本件交通事故を知つたのである。
2 原告は、前記認定の日時場所で被害車を運転して被告車と同方向に時速約二〇キロメートルで道路左端寄りを進行中、右後方から被告運転の加害車が追い越しを始めたころから(前方のトンネルに接近するころ)、右後方の確認をすることなしに次第に右にやや寄る形で進んだところ、折から左に寄りつつ進路を戻そうとしていた加害車の左後方に自車右ハンドル端を接触させられ(衝突地点は道路左端から約二・六メートル)、直ちに急制動の措置をとるも効なく左前方の側壁に衝突したあと右方に斜進して転倒した。
以上の事実を認めることができ、右認定に反する原告本人尋問の結果部分は措信できず、他に右認定を左右する証拠はない。
以上認定の事実と前記認定の事実によれば、被告は原告運転の被害車を追い越すに際し、同車と自車の左側方及び後方の車間距離、その動静を確認し安全に左に戻るべき注意義務があるのに、これを怠り、自車を被害車に接触させた過失があると認むべきであり、したがつて、被告はその過失行為により前記認定の如き権利侵害とこれによる後記損害を発生させたのであるから、不法行為に基づく損害賠償義務を負うべきである。
次に、原告には、本件交通事故につき、直進中、右後方の安全を確認して右に寄るべき注意義務があるのに、これを怠り、その安全を確認しないまま右方に寄りながら進行した過失があると認められる。原告の右過失は損害額の算定にあたり斟酌するのが相当であり、過失相殺の減額割合は三〇パーセントと見るのが相当である。
三 原告は、本件交通事故により前記一に記載したように受傷し、かつ所有車を破損され、これにより各一個の人的及び物的損害を被り、各損害を構成する相当因果関係ある損害項目と金額は次のとおりである。
1 人的損害
(一) 入院雑費 金五万五八〇〇円
原告は、一日六〇〇円の割合で九三日分の支払を余儀なくされた入院雑費は金五万五八〇〇円となつたことは当事者間に争いがない。
(二) 交通費 金一万八四〇〇円
前記認定の事実及び証人菊地静代の証言並びに弁論の全趣旨を総合すれば、原告は前記認定の通院九二日の交通費として片道一〇〇円の割合で合計金一万八四〇〇円の支払を余儀なくされたことが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。
(三) 付添費等経費 金三万〇五〇〇円
前記、認定の事実及び証人菊地静代の証言、原告本人尋問の結果とこれにより真正に成立したと認められる甲第四号証の五並びに弁論の全趣旨を総合すれば、原告は少なくとも入院一〇日間にわたり付添看護を受ける必要があり、近親者により付添を受けたものであるから、同人に対し一日あたり三〇〇〇円の割合で計算すると合計金三万円の債務を負担していること及び消毒料金五〇〇円の支出を余儀なくされたことが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。以上のほか右金員を超えた諸経費の支出を認めるに足る証拠はない。
(四) 文書料 金九五〇〇円
成立に争いのない甲第五号証の一、二、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる第四号証の一ないし四及び弁論の全趣旨によれば、原告は文書料(診断書料、証明書交付料)として合計金九五〇〇円の支出を余儀なくされたことが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。
(五) 休業損害 金五九万二五〇〇円
成立に争いのない甲第九号証、同甲第一五号証、原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認められる甲第六ないし第八号証と甲第一〇号証の一、二を総合すると、原告は、訴外株式会社平和アルミ製作所に勤務する者であるが、前記入院及び通院期間中休業を止むなくされ、昭和五四年六月二〇日から翌五五年一月二一日までの休業損害として金五九万二五〇〇円を下廻らない得べかりし利益を喪失したことが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。
(六) メガネ代 金一万円
原告本人尋問の結果とこれにより真正に成立したと認められる甲第三号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は着用していたメガネを全損させられ、右の時価として少なくとも金一万円を下らない損害を被つたことが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。
(七) ヘルメツト、着衣料 金一万円
原告本人尋問の結果と弁論の全趣旨によれば、原告は本件交通事故によりヘルメツト及び背広上下を全損させられ、ヘルメツトの時価として少なくとも金二〇〇〇円を下らない、背広上下の時価として少なくとも金八〇〇〇円を下らない各損害を被つたことが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。
(八) 慰藉料 金一四〇万円
原告本人尋問の結果とこれにより真正に成立したと認められる甲第一〇号証の三、四、同第一一号証の一ないし五及び前掲甲第一〇号証の一、二並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、本件交通事故により従来通りの肉体労働を行なうことは不可能となり、作業内容の変更を余儀なくされたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。
右認定の事実及び前記認定の本件交通事故の態様、権利侵害の内容(傷害の程度、入通院の経過)、その他諸般の事情による精神的苦痛は多大なものがあり、その慰藉料としては金一四〇万円を下廻らないと認めるのが相当である。
(九) 合計と過失相殺
以上の各損害項目の金額を合計すると金二一二万六七〇〇円となり、これに前記過失相殺による三〇パーセントの割合による減額をすると金一四八万八六九〇円となる。
2 物的損害
(一) 車両損 金一万円
原告本人尋問の結果とこれにより真正に成立したと認められる甲第二号証及び前掲甲第一号証の二を総合すれば、原告は前記原動機付自転車を全損させられ、その時価として少なくとも金一万円相当の損害を被つたことが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。
(二) 過失相殺
右金額に前記過失相殺による三〇パーセントの割合による減額をすると、金七〇〇〇円となる。
3 人的及び物的損害の弁護士費用
弁論の全趣旨によれば、原告は、被告が任意の弁済に応じないので原告訴訟代理人に本訴の提起及び遂行を委任し相応の報酬を支払う旨約していることが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。しかして、本件事案の内容、審理の経過、前記損害額に鑑み、金一五万円をもつて本件交通事故と相当因果関係ある弁護士費用と認めるのが相当である。
四 以上のとおりであるから、原告が被告に対し本件不法行為に基づく損害賠償金一六四万五六九〇円と弁護士費用相当の損害を除いた内金一四九万五六九〇円に対する不法行為日である昭和五四年六月一九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、本訴請求は理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 稲田龍樹)